アタシは、昔からおじいちゃん・おばあちゃん子でした。
週末になると「じいちゃんの家に泊まりにいく!」と母に車で送ってもらってじいちゃんの家に行きました。
じいちゃんの家に行くと、いつも100円をもらって好きなお菓子を買いに行けました。
じいちゃんの家では、いつもはテレビを見せてもらえない時間でも「お母さんに内緒にしておいてやるから」と、大好きなSMAPの「夢がMORIMORI」を見せてもらえました。
母の年の離れた弟はお兄ちゃんのようで、いつも2階のお兄ちゃんの部屋に行って、ドラゴンクエストをやるお兄ちゃんの後ろでテレビ画面を見つめていました。
母がよく話してくれました。
「あなたは初孫だからね。じいちゃんはあなたが可愛くてしょうがないんだよ」
そう言えば、世田谷の麻雀教室のボランティアスタッフさんもよく言っています。
「もうね。初孫ってそれだけで可愛いの!他の子達もかわいいのよ!でも初孫だけは特別なの!」
そうやってアタシは生まれた時からずっとずっと、じいちゃんに愛されて可愛がられて育ってきました。
母方のじいちゃんは、昔からアイスが大好きでした。
何度言っても「アイスキャンデー」って言っていたな。そういえば。
昔々。もう何歳のころかも忘れてしまったけれど、アタシがばあちゃんにもらったお小遣いで買って、冷凍庫にいれておいたアイスが無くなっていたことがありました。
「アイスが無い!後で食べようと思っていれておいたのにー!」
そうやってふてくされる私の前に、その日は結局、アイスを食べてしまった人は現れませんでした。
ふてくされながも、お兄ちゃんの部屋で夜更かしをして、次の日にゆっくり起きたら、いつもソファーに座っているはずのじいちゃんが居ませんでした。
冷凍庫には前日にアタシが買ったアイスよりもずっとずっと豪華な箱に入ったアイスが入っていました。
ばあちゃんがアタシに言いました。
「じいちゃんね。自分がアイスキャンデー食べちゃったって言ったら嫌われると思って言えなかったんだと思うの。今日の朝自分で買いに行ったんだよ。だから許してあげてね」
じいちゃんが帰ってきて何事もないようにソファーに座りました。
アタシはじいちゃんに言いました。
「じいちゃん!すっごい美味しそうなアイスがあるよ!一緒に食べよう!」
その時の、じいちゃんの嬉しそうな顔が、今でも忘れられません。
中学校に入ったばかりの頃、じいちゃんの家のすぐ近くに引越しをしました。
転校は寂しかったけれど、じいちゃんとばあちゃんの近くにいられることが嬉しくてたまりませんでした。
高校生になって、ばあちゃんが母の車に乗って、頻繁に病院に通うようになりました。
母から「今日は、ばあちゃんの病院の日だから」と聞くと、アタシは学校の帰りに最寄りの1つ前のバス停で降り、美味しいケーキ屋さんに寄って、バイトをしてもらったお小遣いでケーキを2つ買いました。
じいちゃんの家に行くと、じいちゃんが1人ソファーに座ってテレビを見ています。
いつだってアタシが遊びに行くとじいちゃんは嬉しそうに出迎えてくれました。
「じいちゃん!ケーキ買ってきたよ!2人で一緒にお茶しよう!」
そう言うと、じいちゃんはいつも本当に喜んでくれました。
アタシが買ってきてくれたケーキはもったいなくて食べられないって、そう言いながら美味しそうに食べてくれました。
そして。アタシは東京の大学に進学して、1年に2回ほどしか帰省しなくなりました。
アタシが帰省すると、じいちゃんは必ず言いました。
「好きなようにやったらいい。ただ体だけは大事にしなさい」
って。
アタシね。じいちゃんに似たみたいだよ。
周りが心配して「病院行ったほうがいいよ。検査したほうがいいよ」って言ってくれても、
「別に大丈夫だよ」
そうやって後回しにしてしまうところ。
変な所で似ちゃったね。
じいちゃんが血痰を吐いて救急外来に行った時には、もう手遅れだったみたい。
1泊2日で北海道に帰ってきました。
ホスピスに入り、1週間前からモルヒネを投与して、日に日に衰弱しているじいちゃん。
どんどん強くなっていくモルヒネで、意識が朦朧としているじいちゃん。
もう言葉を発することもできないじいちゃん。
前の日はストローで水が飲めたのに、もうストローを吸うこともできなくなったじいちゃん。
そんなじいちゃんの顔に自分の顔を近づけて
「じいちゃん!帰ってきたよ!」
そう言うとじいちゃんが手を少しだけ上げてアタシの手を握ってくれました。
母がじいちゃんに言いました。
「ねぇ。じいちゃん。この子が1番かわいいんだもんね。ほら。じいちゃんに会いに帰ってきたんだよ」
もう話すことは出来ないし、気が付くと眠っていたりするけれど、毎日じいちゃんの世話をしている母が言ってくれました。
「じいちゃん、嬉しそうだわ」
孫の花嫁姿は、妹が見せてくれました。
ひ孫は弟夫妻が見せてくれました。
アタシは勝手に東京に行って、好きなことをやって生きて
「まだ結婚はしないのか?」
そう聞くじいちゃんに
「じいちゃんより素敵な人が居ないから結婚できないよ」
そう言うことくらいしかできませんでした。
それでもじいちゃんは、ちょっぴり照れくさそうに笑ってくれました。
母とばあちゃんが言っていました。
「あなたの初めての節句の時なんてね。じいちゃん、店で売ってるひな人形のなかで1番でっかいやつ買う!って言ってね。未だにみんなあなたのお下がりなのよ」
たくさんの人形が飾ってあった、大きな大きなひな壇のひな人形。
じいちゃんが買ってくれたんだね。
「そろそろ行こうか」
そう母が言った時、アタシは言葉が詰まりました。
いつも帰省した時には
「じいちゃんまたね!また帰ってくるからね!元気でね!」
そう言っていたのに、何て言ったらいいのかわからなくなりました。
もう、生きているじいちゃんには会えないのに。
アタシはじいちゃんになんて言ったらいいの?
母がじいちゃんに言いました。
「じいちゃん、また来るからね」
昔から、アタシが何をしても、じいちゃんはアタシを怒ることはなかったから、いつもじいちゃんには嘘をつくことなく何でも正直に話していました。
そんなアタシは、最後にじいちゃんに嘘をつきました。
「また来るからね。じいちゃん。」
じいちゃんは、焦点も合わないまま、もう1度手を上げてアタシの手を握ってくれました。
ごめんね。じいちゃん。
じいちゃんは何を思っていたのかな?
じいちゃんがすごくすごく喜んでくれた日、アタシが生まれた日から、もう30年の月日が経とうとしています。
30年も可愛がってくれてありがとう。
じいちゃんの初孫として産まれてこれて幸せです。
先程、東京に戻って来ました。
そして、30歳になりました。
じいちゃん、ばあちゃん、お父さん、お母さん、妹、弟、アタシに関わってくれている全ての方々のおかげでこの日を迎えられました。
応援して下さる皆様、支えて下さる皆様、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。
2013.6.20
大崎初音
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30。
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